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既存住宅流通のために高性能な新築を 「現場の美しさ」は工務店の評価指標 将来「環境対応」も工務店の評判左右する

JKホールディングス㈱青木慶一郎社長インタビュー 

インフレが進むなか、工務店には省エネ基準適合義務化や環境対応などが求められている。先行き不透明な市況で工務店はどのように生き残ればよいのか。そこで、総合建材卸売業最大手であるJKホールディングス㈱の青木慶一郎社長に見識をうかがった。

――2025年の省エネ基準適合義務化によって断熱等級の最低基準が引き上げられます。これによって住宅性能は向上すると思います。御社は「快適で豊かな住環境の創造」を企業理念として掲げられています。これを実現するうえで昨今の状況は追い風になっていると思われます。一方で工務店からは資材高の中でさらに建築コストが上昇するという懸念も聞いています。このような市況についていかがお考えでしょうか。

青木社長:時代は質の高い住宅供給を行う方向にシフトしており、この流れは当然といえるでしょう。今回の省エネ基準適合義務化は、スクラップ・アンド・ビルドの時代が終わったのだと捉えられます。そこで今後は既存住宅が中古市場で円滑に売買できるような環境づくりが求められていきます。代表的なものとしては長期優良住宅が挙げられるでしょう。今は安い住宅を購入するという選択肢であれば、新築のローコスト住宅を購入することが通常となっていますが、この選択肢の中に中古住宅も入れたいところです。中古住宅市場が整備されれば、安さを重視する方でも買える金額となります。また、施主様が古い住宅を売却する際でも米国の住宅や長期優良住宅のようにきちんとメンテナンスしていけば、資産価値として残せる可能性が高くなります。また、住まい手の持つ想いとして「快適に過ごしたい」というニーズは変わりません。このことからリフォームの案件は今後、さらに伸びていくと思われます。弊社でも今後力を入れて行きたい分野と捉えています。

――総務省が5年に一度行っている調査によると空き家の数は前回調査から約51万戸増えて900万戸となりましたが、これについてはいかがでしょうか。
青木社長:長持ちする住宅を普及させていくうえでは、日本の相続税についても考慮の余地があると感じています。例えば海外では、一棟目は相続税がかからず、二棟目からはかかるといった仕組みを採用している国もあります。一棟目の相続の負担が少なくなる仕組みならば、その分住宅をリフォームするなど「長持ちさせて住み続けよう」という消費者の機運も高まるのではないでしょうか。

――合板の市況についていかがでしょうか。
青木社長:輸入合板、国産合板ともに価格は下げ止まり、足元では上昇に転じようとする局面かと思います。為替が円安局面から状況が改善しない前提で考えれば、これ以上価格が下がるのは供給側にとって厳しいものがあるでしょう。

――合板価格が安くなりすぎるのは山元への利益還元を考慮すると望ましいものではないという考え方もあります。森林循環を進めていく観点で現況はいかがでしょうか。
青木社長:合板の値段が上がるのは、林業に従事されている方々のやる気にもつながります。もちろん、工務店様の視点からみると価格が上がれば住宅価格に転嫁されてしまうという視点も理解しております。しかし、値が上がった分は日本の林業家に戻るため、経済の健全化につなげられます。今後も業界全体で価格を維持して、最低限の利益は確保するべきだと考えています。

――コスト増、為替の円安によって厳しい環境が続いていますが、その中でも、顧客との長期的な関係を築くためにどのような戦略をとっていますか。
青木社長:お客様に対していち早く情報を共有することが挙げられます。例えば海外に駐在している弊社の合板担当者から、現地の情報が定期的に報告されれば、ある程度先の市況感について予測が得られるようになります。そうすれば、前もって「この先輸入合板が値上がりする可能性が高い」という情報が共有でき、市場やお客様の混乱を避けることができるでしょう。明日からいきなり「値上げします」とアナウンスすれば混乱が生じてしまうため、そこが弊社の戦略です。

――御社ではSDGsへの取り組みを積極的に進めていますが、これについてはいかがでしょうか。
青木社長:SDGsへの取り組みの中には短期的にみてコストが上がってしまうものもあれば、省力化対策などコスト削減につながるものもあります。後者については施工者の負担や施工時間が減るため、建築に関わる方の多くの方に喜ばれるでしょう。また、働き方の見直しについては、業界としてより一層、女性活躍に取り組んでいくべきだと思います。業界で女性が活躍している事例はニュースなどで聞きます。このように、優秀な女性社員にスポットライトを当てて、その様子を広めていくことが、業界全体の発展にとって重要だと考えています。

――工務店には気候変動への抑制につなげられる「環境対応」への取り組みが求められています。このような取り組みをしないことで将来的にどのような問題が出てくるか、青木社長の見識をお聞かせください。
青木社長:工務店様が環境対応に取り組むメリットは沢山あります。ただし、インフレが進んでいる昨今においては安さが重視される側面もあるでしょう。その中で、施主様に環境対応に向けた取り組みがどこまで響くかという懸念も、工務店様にはあることでしょう。今の情勢でいえば、2025年の省エネ基準適合義務化を目前に控え、あえて断熱等級4未満で建築してコストを下げる事業者が出てきているかと思います。ただし、高性能な住宅を建てても現場が汚いなど悪評が立ってしまえば元も子もありません。環境対応を行っているかどうかは、こうした評判を左右する要素にもなっていくと思います。

――現場が綺麗かどうかは、一見住宅の完成度とは直接の因果関係がないように思われるはずです。しかし、今の施主様は現場が綺麗かどうかを大変重視されます。将来的には、現場の美しさと同様に「環境に配慮しているかどうか」が見られていくのでしょう。
青木社長:時代が環境配慮の方向に進んでいます。特に上場企業などハウスメーカー様やビルダー様では、環境対応が強く求められています。工務店様におかれましては100%取り組むことはできなくても、意識的に少しずつ変えていく必要があるかと思います。

――中大規模木造建築や内装木質化に活用する木材を貴社グループ会社で生産されています。昨今の中大規模事業、非住宅事業の景況感についてはいかがでしょうか。
青木社長:弊社グループ会社における直近1年間の業績は期待に届かない結果となってしまいました。大型物件を手掛けているため、業績が上がる年とそうでない年の差が大きいのです。また、足元で取り組んでいる物件に注力しすぎて翌年以降の種撒きができていなかったこともあります。このような結果を受けて、戦略を変えようとしているところです。大規模物件だけを狙うのではなく、比較的小規模で回転率が高い物件の比重を高めていくほうが、ビジネス的には良いと考えています。市況全体では昨今、中大規模物件の竣工例が増えてきています。竣工がニュースになれば、そのニュースがPRになります。世間一般に「木造で大規模建築物が作れる」という意識が浸透していくのは大きなアドバンテージだと捉えています。ただし、現在は鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)の原料になる鉄材の相場が上がっているため、木造が有利になっている背景もあります。一方で、今後鉄材が安くなると木材が不利になるケースも出てくるでしょう。まずは木材利用が環境に良いというメリットを多くの方々に理解していただくことが重要です。



日本住宅新聞提供記事(2024年8月5・15日合併号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp


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