女性の建設産業定着促進に向け、新たな実行計画策定へ
女性の建設産業定着促進に向け、新たな実行計画策定へ
国土交通省は8月21日、「女性活躍・定着促進に向けた実行計画検討会(第1回)」(座長=建設産業女性定着支援ネットワーク須田久美子幹事長)を開催。建設産業における更なる女性活躍・定着を目指し、新たな実行計画策定に向けた議論を始めた。
同省は建設業界における女性の更なる活躍や定着を目指し、平成26年に「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」、令和2年に「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」を策定。
官民を挙げた取り組みを進めてきた歴史を持つ。
ただ、前回の計画策定から5年が経過、建設産業を取り巻く情勢に変化がみられるのも事実だ。
こうした中、これまでの取り組みを振り返るとともに、建設産業における女性活躍・定着の更なる促進に向け、新たな実行計画策定に向けた議論を行うことを目的として本検討会を設置。当日は①現行計画に掲げた取り組み目標の達成状況、②各団体等におけるこれまでの取り組み、③今後の検討の方向性、④意見交換――が行われた。
①では、事務方がこれまでの経緯について説明。女性技術者・技能者を5年で倍増させることを目標とした「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を平成26年に国土交通省と建設業5団体が策定したことを振り返った。
さらに令和元年に策定した「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」についても言及。「働き続けられるための環境整備を進める」、「女性に選ばれる建設産業を目指す」、「建設産業で働く女性を応援する取り組みを全国に根付かせる」という3つの考えを柱に据えた他、対応する取り組み目標と進めるべき取り組みを整理したことを紹介した。
なお、令和2年以降、建設業入職者に占める女性割合は毎年度対前年比で増加しているが、産業別でみると全産業平均と比べても未だ低い状況が続く。また、離職者についても増加傾向にあるほか、「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」の認知度は21・6%に過ぎない。
この他、令和5年においては建設業に従事する女性職員88万人のうち、「女性技能者」は13万人(14・8%)、「女性技術者」は3万人(3・4%)にとどまる。男性も含めた建設業全体(計483万人)の就業者数で見た場合、「技能者割合」は65%、「技術者割合」は7・9%を占めることから、著しく低いことが分かるとした。
②では、国土交通省を含めた計8団体による事例を発表。同省の取り組みとしては平成28年度以降、直轄工事における洋式便器の「快適トイレ」設置の原則化や、経営事項審査でワークライフバランスに関する取り組みの状況を新設したことなどに触れた。
一方、(一社)全国中小建設業協会は「この10年間、ほとんど女性活躍、定着について着手できていない」と吐露。安定経営ができないため従業員の処遇改善を始めとする設備投資もできない他、従業員の高齢化が進み、担い手不足が発生、女性活躍定着より目先の従業員の定着が重要となっているとする。
さらに市町村発注の工事に、工事は安定的な仕事量がないため、将来に向けて人を含めて投資ができなく、限られた人数での仕事となっていると解説。企業利益を出すために効率性を求め、必然的に多能工による仕事が中心となり、危険を伴うため、どうしても男性に頼らざるを得ないと理解を求めた。
また、高齢者経営者の中には初めから女性を排除する考えを持っている人もいる可能性を指摘。
経営者の世代が変われば考え方が随分違って、女性の採用もできるようになるのでは、と述べた。
(一社)建設産業専門団体連合会からは個別の小さな工事を請ける際、女性専用のトイレを設置するのは費用的に難しいことを明かす。
ただ、女性入植者は、こうした環境を理解した上で仕事が好きで働いていると報告した。
また、女性専用トイレを設けても、男性の入植者が「こっちのほうがきれいだから」という理由で使用してしまう例もあると解説。
女性入職者から、せっかく設置してもらっても使いにくい時がある、との意見も聞かれるとした。
(一社)全国建設産業団体連合会は女性の入職者にトイレに困っていないか尋ねた所、「トイレを設置するのは無理だとわかっているので、まず近くにコンビニがあるかどうかチェックした上で現場に入っている。
そんなにトイレの問題は考えていない」といった答えが返ってきたと報告した。
(一社)住宅生産団体連合会(住団連)は女性活躍・定着に向けた取り組みとして「住宅工事現場における技能者の働き方改革ガイドライン」を2024年4月に改訂。
この中で女性の特性に合った作業を見極め、男性と分担することで作業効率の向上につながると記載した。その上で女性用仮設トイレや更衣室の設置、子育て世帯に配慮したフレキシブルな作業環境を整えていく取り組みも必要としている。
一方で住宅現場は狭く、1つの建物の中で休憩する場所を設置するのは容易ではない点に言及。トイレも場合によっては1つおくので精一杯といった苦労も寄せられた。
当日は同省の事務方が今後の方針について説明。女性の技能者・技術者の割合を増やしていくことが目的なのではなく、あくまで担い手の確保そのものが課題であるという共通認識に立つ必要性について述べた。
その上で「女性の入職促進に向けたきめ細かい広報戦略の展開」、「新たな活動領域への着目」、「トイレの環境整備・理解の促進などハード・ソフト両面からの現場における環境整備」という3つの重点テーマ案を設定。
さらに計画の具体化に向け、「有識者ヒアリングの実施」、「地方ブロック単位での意見交換会の開催」、「各団体・企業アンケートの実施」を行う方針だ。
これについて委員である住団連からは、「建築業で女性が増えない理由についてアンケートを取ったら、長時間労働や休日出勤などが挙げられた。
女性に限らず、『女性が働きやすいイコール男性、高齢者含めてみんなが働きやすい環境だよね』という考え方で進めていければ」との意見が寄せられた。
同検討会は今後年内に2回目の検討会を開催した後、来年の1~2月ごろ、新計画案をまとめる方針だ。
建設業における人手不足を解消するためにも女性の定着は喫緊の課題。
工務店においても、業界全体の発展に向け、より働きやすい職場環境実現への配慮が求められているといえるだろう。
日本住宅新聞提供記事(2024年9月5日号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp