カナダの住宅施策、スピード感が重要
カナダの住宅施策、スピード感が重要
木造住宅における耐久性の最上位資格である「住宅外皮マイスター」資格制度を運営する(一社)住まいの屋根換気壁通気研究会は、「第3回住宅外皮マイスター資格試験合格者交流会」を5月9日に実施。
同研究会は2014年10月に設立し、今年で10周年を迎える。
2021年には同資格制度を創設し、「住宅外皮マイスター」は第3回合格者を加え総勢321人となった。
当日は、カナダのビルディングエンベロープ(住宅外皮)エンジニアである伊藤公久氏が「建築の気密性能とカナダの気密基準」を題目に講演を行った。
カナダでは1980~2000年にかけて、バンクーバー市を中心とするブリティッシュコロンビア州の沿岸地域で大規模な雨漏り欠陥住宅問題が発生。
戸建住宅や木造の中層マンション・学校で「雨漏り」、「下地材のはがれ・劣化」、「木構造部の腐朽」、「断熱材の湿潤」、「カビの発生」が相次ぎ、カナダ住宅産業史上例を見ない事故となった。
これを「リーキーコンドクライシス」(Leaky condo crisis)と呼ぶ。
同事故の主原因は、ポストモダンのデザイン優先の風潮(軒ゼロ・塗り壁・パラペットなど)に、雨仕舞や通気・換気の技術が追随できていなかったことと、工事中の雨水浸入の2点。
同事故をきっかけにカナダでは法整備が行われ、「ビルディングエンベロープ」という建築外皮分野の体系化を促進した経緯を持つ。
さらに、伊藤氏はカナダにおける住宅施策のスピード感について紹介した。
2、3年前カナダ・バンクーバー(北緯49度線・樺太の中央部)で夏の温度が40度を超え、今までにない高温を記録。
高温の中、1週間程過ごすことになる。これまで湿度も非常に低く快適な夏を過ごせていたので、住宅には冷房の設備がなかった。
そのため、熱中症により多数の死者が発生。
カナダの人にとって熱中症は今まで経験がなかったため、ほとんどの人に対策が理解されていなかった。
そこで、行政はすぐに住宅施策の変更に動き、各家庭の新築住宅全てにおいて冷房装置を入れた部屋を作らなければいけないという義務化を開始。
伊藤氏は「カナダは非常に対応が早い。人の命を守るための建物であるという原則のもと、しっかりと我々と行政とが一致しながら進めていくスピード感が非常に重要な要素となっている。財政もそこに対応できている」と話した。
その他、「気密の重要性」、「気密のメリット」、「気密測定による建物外皮の性能向上」、「MassTimber建築の普及」などについて講演。
最後に同氏は「カナダでは地球環境保全、気候変動抑止策、脱炭素、省エネルギー政策に向けた建築基準法の改正そして外皮技術の向上を目指す中、気密測定は不可欠な基準」とまとめた。
日本住宅新聞提供記事(2024年9月25日号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp