住宅産業は地場産業 国産材の安定供給体制構築を
新春特別インタビュー JKホールディングス㈱ 青木 慶一郎社長 住宅産業は地場産業 国産材の安定供給体制構築を
「快適で豊かな住環境の創造」を企業理念に、建材の卸売事業や製造業、小売業、建設業など、住宅関連業界に幅広く事業展開するJKホールディングス㈱。そんな同社は工務店をはじめとする昨今の業界の在り方についてどう捉えているのか。
また、近年の社会情勢を踏まえ、どのように変化すると予測するのか。
青木慶一郎社長に昨年の振り返りと今後の住宅業界の動向についてお伺いした。(編集部)
――本日はよろしくお願い致します。はじめに住宅業界全般についてお伺いします。令和6年の振り返りと令和7年の抱負をお聞かせください。
青木社長 よろしくお願いします。
令和6年の振り返りですが、前年の令和5年から続く給与水準の引き上げや物価高、為替の円安といった様々なコスト上昇傾向の流れは基本的に変わらなかった一年だったと思います。
住宅業界においては、着工数が相変わらず伸び悩みました。
この他、建設業や運送業の残業時間を規制する「2024年問題」を受け、労働力不足が顕著化してきた年でした。
弊社でも建材などの運送費を上昇させるなどの影響がみられました。
令和7年も基本的な流れは変わらないと思います。
今後も物価は上昇し、さらなるインフレ傾向は進むのではないでしょうか。
こうした中、建材メーカーなどの決算をみていると、利益が少ないと報告した企業もありました。
こうした企業については物価高の中、社員の給料を上げるため、製品価格に転嫁させることもあるでしょう。
そうなれば結果的に住宅価格のコスト増につながってくると思われます。
世間一般には物価高と賃金上昇で景気が良くなったとみられるかもしれませんが、住宅関連業界においては必ずしも歓迎すべきことだとは言い切れないかもしれません。
とはいえ、米国ほどではないにせよ当面日本も物価が上昇していくとみています。
さすがにバブル期のような事態にはならないと思いますが、それでも20年、30年後に振り返ってみたら、今の住宅価格は安く感じられるのではないでしょうか。
――今、お話があった建築資材や原材料、物流費、人件費などの上昇に対し、御社グループとしてはこれからどう対応されていきますか。
青木社長 メーカーとの関係で価格が決まるところもあり、売り値はそう簡単に上げられません。
そのため、今後いかに効率化を図るかだと思います。
今すぐ、というわけではありませんが、将来的に物流分野などで改善に着手できればと考えています。
先日、ソフトバンクグループ㈱の孫正義会長が講演の中で「人間の脳と同レベルのAIが誕生する『シンギュラリティ』が早まる。
5年後に人間の全知能を超えたAIが出てくる」と発言されていました。
このような変化を弊社グループの業務で活用する場合、例えば倉庫の入出荷を効率化できる可能性が見込まれます。
もちろん弊社だけではなく、メーカー、販売店、工務店の皆様と連携して段取り良く入出荷ができるようになればコストダウンに繋がります。
ただ、どうしても現場ごとに発注忘れや不足するものがでるもの。
この積み重ねがコストアップにつながってくるので、こうしたロスを減らすような取り組みが開発されれば、業界全体の効率化が進むと思います。
――近年、住宅業界において物流に関連する話題としては「ウッドショック」や「2024年問題」など様々な出来事がありました。
こうした中、今後も木材や建材などの供給体制は滞りなく全国で維持されていくものと考えてよろしいでしょうか。
青木社長 近年「ウッドショック」が大きな問題となりましたが、あの事象自体はかなりイレギュラーなケースだったと考えています。
その上で弊社は全国を網羅する物流拠点を確保していますが、それでも実際の配送時には品不足からくる欠品が発生しないとは言い切れません。
そこで木材については国産材比率をさらに高めることで、為替や海外物流の遅延による影響を受けにくくする体制の構築が望まれます。
一方、これを実現するには国産材の価格と供給の安定性が必要です。
「国産材価格が高くなれば出材されるけど、安くなったら出てこない」というのでは混乱が生じます。
安定的なサプライチェーンを維持し、山から木を伐採して運ぶ人たちや再造林事業にお金が回るよう、ある程度の値段維持は必要だと思いますし、こうした体制を業界全体で構築していくべきではないでしょうか。
このような中、現在、弊社グループでは山形県西置賜郡の地元の建設会社と共に出資・設立した「おきたま林業㈱」を通じ、主伐期に達した人工林資源について、主伐や再造林を推進する取り組みを始めました。
再造林しても木が育つまでには数十年の時間が必要とされますが、誰かが取り組まないと始まりません。
こうした動きが広がっていけばと思います。
――非住宅向けの木造建築は、工務店にとって新たなビジネスチャンスにつながると思われます。
青木社長は中・大規模建築物の木造化の展望や市場動向についてどのように見ていらっしゃいますか。
青木社長 先日、ある調査会社のレポートに非住宅木造の面積は今後増えていくとの予測が示されていました。
実際そうなるのではないか、と私たちも期待しています。
特に3、4階建ての他、10階建ての上部4階だけを木造にするといった混構造は増えてくると思います。
中でも3、4階建ては、工務店さんにとってもチャンスにつながるのではないでしょうか。
新規に参入される際ですが、普段からお付き合いのあるプレカットや材木屋さんの中にこうした物件に携わった経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
こうした方々に一度相談されてみるのもよいでしょう。
また、建材や集成材、加工といったメーカーや販売店、設計事務所と仕事を進めることも可能です。
こうした取り組みがやがては工務店さんの強みになるのではないでしょうか。もちろん弊社グループにご相談いただければ、様々な形で真摯にご提案ができるのではないかと思います。
――御社のSDGsなどの取り組みについてもお聞かせください。
青木社長 弊社グループでは温室効果ガスの排出量を全事業所で捉えることができるようになりました。
今後、どうやって排出量を減らしていくか検討し、成果を公表していければと考えています。
この他、エコブランド建材のJ-GREENでは炭素貯蔵量の伝票等への表示を通じ、環境貢献をお客様と共有する取り組みを進めています。
将来的には二酸化炭素の排出量や炭素の貯蔵量を数字で把握しておくことが大切になると思いますので、後々慌てないよう取り組んでいます。
SDGsは環境以外にも様々な目標がありますが、弊社グループで特に力を入れているのが多様性の分野。
具体的には女性がもっと活躍できる会社にしていこうと取り組んでいます。
そこで女性社員約20名に参加してもらい、どうしたらもっと女性社員が働きやすい会社になれるのか、プロジェクトチームを作って議論するようお願いしました。
ただ、今はまだ「女性が働きやすい」というテーマを設けていますが、そもそも「女性」と意識づけなければいけない現状そのものがナンセンス。
「仕事ができて抜擢された人が女性でした」ということが当たり前になるべきです。
こうした取り組みを通じ、若い人がこの業界に入ってきたくなるようにしたいですね。
そのためにも社内の人がもっと自然に自分の意見を言って活躍してくれる職場、会社にしたいと思います。
――最後に読者の工務店経営者の皆さまに向けた力強い応援のメッセージをお願いいたします。
青木社長 住宅産業は基本、地場産業。本来地域密着している工務店さんが地域活性化に取り組み、信頼され、受注していく姿が理想だと感じていますし、実現できると思います。
中にはお客様とのコミュニケーションを取ることが苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、根差される地域との関係を深め、ご活躍いただければと思います。
その際、我々としてもサポートできることがあれば最大限取り組みますので、どうぞよろしくお願いします。
日本住宅新聞提供記事(2025年1月25日号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp