今の時代のり超えるための後方支援 経済性より快適な住生活を主軸に
今の時代のり超えるための後方支援 経済性より快適な住生活を主軸に
ジャパン建材㈱小川明範社長インタビュー
経済の正常化が進む中でも、物価高は続く。住宅市況の先行きが不透明な中で工務店経営者は現状をどのように認識し、どの方向へ舵をとるべきか。
そこで、総合建材卸売業最大手であるジャパン建材㈱の小川明範社長に見識をきいた。
――注文住宅は昨年後半から問合せなどの動きが出てきており、多少景況感が明るくなっている状況かと思われます。
小川社長からみて注文住宅の景況感をどう見ておられますか。
小川社長:大手ハウスメーカー様の情報によれば、確かにショールームの来場者数について若干回復の兆しはあります。
しかし、戸建て住宅の受注が回復基調に入ったかといえば、あまりそのようにはみておりません。
あらゆるコストプッシュ要因によって住宅の単価は上昇し、購入者側においては購入意欲の減退や検討の長期化などにつながっています。
――首都圏の土地価格は上がりすぎているように思いますが、今後の市況はどうなるのでしょうか。
小川社長:日本国内の土地価格を過去から連続性をもってみれば、かなり高くなっていると感じますが、グローバルな視点から俯瞰すると日本の首都圏における土地価格を含む物価は先進諸外国の都市と比べてまだ低いです。
外国人による住宅購入が話題になるのも、こうした背景があるのでしょう。
首都圏の土地価格は、これから下がっていくのではなく、高止まりしていくと考えています。
世界的にサプライチェーンがグローバル化している中で、我が国の物価は高くなっていかなければならないともいえるでしょう。
また、今までの住宅業界では、例えば、新設住宅着工戸数が「85万戸を超えたら景況感が良い、80万戸を割ると景況感が悪い」というように、新設住宅着工戸数をインデックスとした表現をしてきたと思います。
しかし、今の日本は人口が減少しておりますので、住まいを建築する市場は、先細りしていきます。
こうした中で私が注目したいのは、900万戸ともいわれる膨大な空き家です。
この30年間で倍増した戸数を1年あたりの数に直せば、毎年15万戸ほど増加していたわけです。
その一方で、年間で新築された住宅戸数が約80万戸というのは、「果たしてそれで良いのか」、という視点もあるのではないでしょうか。
日本の新築市場は住宅ローンを払い終える頃には、上物の資産価値がゼロになってしまうケースもあります。
お施主様が、汗水垂らして働きながら支払った数千万円が価値として残りづらいのは、日本人を豊かにしていく際の障壁になりかねません。
だからこそ国土交通省では、循環型の住宅ストックの仕組みを実現するため「長期優良住宅」を推進しています。
実現のためには一定の性能水準を有した住宅を建てなければなりません。
きちんとした住宅を建てて、維持・メンテナンスを定期的に実施していけば、将来、資産価値が残るような仕組みになりつつあります。
今後、新たに住宅を建てようとする方々は最低でも長期優良住宅が建てられる用意をしておかなければ、競争の土俵には乗れなくなります。
日本の住宅は断熱性能や耐震性能が高いとはいえません。そういった家を販売するのは引き渡しの時点から資産価値ゼロの将来に向かうことを宣言しているようなものなのです。
よって、新設住宅着工戸数が減少している時代で生き残るには、そこを目指さなければなりません。
確かに、厳しい事業環境ではあります。法規制への対応や人手不足など様々な課題があるでしょう。
しかし、困難を乗り越えた先にはお施主様や工務店に利益が残せるフィールドが待っていると思うのです。
総合建材卸売業を手がけている弊社としては、そのような取り組みが進められるよう、大切なお客様である流通店様やその先にいらっしゃるビルダー様、工務店様とコミュニケーションを取り合い、今の時代を乗り越えられるように協力しております。
また、中にはマンパワーの問題で割けるリソースに限界がある方もいらっしゃるかもしれません。
そういった会社様には設計のサポートなど後方支援ができるようなメニューも用意しております。
――住宅業界の景況感というと最近は暗い話題ばかりでしたが、小川社長のお話を聞くと、「難しい今の時代を超えたら、どんな良い未来が待っているのだろう」と前向きになれます。
小川社長:たしかに新設住宅着工戸数の持家戸数は前年比減少が続いています。
しかし、そんな中でも生き残れる準備さえしておけば良いのです。特に地場の工務店様が大手ハウスメーカー様や分譲系の住宅会社様と最も異なるところは「地域密着」という点です。
この特長を切り口に差別化を図ることができるのは地元の業者の最大の強みではないでしょうか。
その点は活かさなければなりません。
――将来的に大都市圏・都市圏で1階をテナントとして2~3階を住宅とする店舗併用型の建物が増えるのではないかという声も聞いています。そこで懸念されるのは経済性や収益性を重視すると、住宅性能が下がりやすくなってしまうのではないかという点です。
小川社長:収益物件として利回りは事業者にとって重要な視点です。
しかし、「住宅」という切り口だけでみれば、やはりそこに住まう方が快適で豊かな生活を送れるかが主軸になければなりません。
「儲かるかどうかの経済性は最初に議論されるべき点ではない」と私は思います。
少なくとも日本住宅新聞の読者である地場の工務店様は、経済性を最優先にする方々ではないでしょう。
それに、住まう人の幸せや経済に優しい特長を軸にしなければ、持続的に社会から求められる企業にはなっていかないのではないでしょうか。
省エネ性能が高い住宅であれば、光熱費も抑えられます。
特に6月からは電気代に適用されていた政府の補助金が終了するため、今後さらに住まい手への経済的影響は大きくなります。
世界情勢が不安定で原油などの原料価格が上昇し、電気代の支出が高くなってしまう今の時代だからこそ、地場で活躍されている方にとっては、省エネ性能の高い家の供給が会社としての価値になってくるのではないかと思っています。
我々は、そういった方々と一緒に日本の住環境を整えていく仕事をやらせていただきたいと思います。
――持続可能な建材が求められている市況に対し、御社は2023年11月から一部の木質商品について、商品ごとの炭素貯蔵量を伝票等に表示しています。これについてお聞かせください。
小川社長:我々が率先していわゆる炭素貯蔵量の表示に取り組み始めたのは、我が国全体が大きな潮流として環境対応に向かっていた背景があります。
炭素貯蔵量の表示に対応している商品の数はまだ少ないものの、こうした企業としての方向性を示すことが弊社の意思表示として業界に広まっていくことが大事です。
もちろん、これで終わりとは思っておりません。
より対応商品を増やしていきます。特にゼネコン様など大手の会社様からは、従来からこうした環境対応への取り組みついて強い要望をいただいておりました。
例えば、合板では森林破壊をしていない製品であることの証明や、国産材の採用などを求める声をいただいておりました。
こうした環境対応という価値の提供はブランディングや差別化にもつながります。
一気呵成に広がることはないにせよ、この潮流は大手を中心に徐々に広がっていくのではないでしょうか。
日本住宅新聞提供記事(2024年7月5日号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp