環境に価値を与える企業のモデルに 木材自給率 早い段階で50%に到達と予想
50周年記念特集号(第三弾) 中国木材株式会社 堀川保彦社長 環境に価値を与える企業のモデルに 木材自給率 早い段階で50%に到達と予想
――本日は宜しくお願い致します。初めに現在、国は脱炭素社会を実現させる取り組みや地球温暖化対策の一環として、木材の自給率を高める方針を示しています。
そこで、国内製材大手の御社は50年後に向け、長期的に国産材の使用割合がどのように推移していくとお考えでしょうか。
堀川社長:50周年、誠におめでとうございます。 今後国産材の比率は高まってくると思います。50年後というと予測が困難ではありますが、木材は、その樹種が使い易いと評価され人気が出ると、過伐に陥ることが多くあり、その結果、30~40年周期で一度丸太の供給量が落ちてくるケースが見られがちです。
それを発生させない循環型への移行が必要なのですが、少なくともそれまでは国産材は伸びてくると予測します。
また、為替や外部環境次第ですが、木材自給率の50%については、早い段階で達成できるのではないでしょうか。
ただし、現在多くの外材は乾燥済みで輸入されますので、国内に製材と乾燥窯などのインフラ整備等も必要ではないかと感じております。
住宅分野で国産材は多少強度が低いことから、2階床の梁などで使い難い部分もあるのではないでしょうか。
また国内の山林では、台風が来れば林道が崩れ、丸太が出荷できなくなることもあります。
需要の高まりとタイミングが重なると、一気に丸太価格は上がります。
丸太を安定的に出材できるインフラが整備されないと価格にも影響してきてしまう点は課題だと思います。
――コロナのパンデミックから発生したウッドショックや、国際紛争による輸出入取引の地政学リスクが木材取引にも影響しています。こうした中、国産材へのシフトが進んだとの話を聞きますが、実際にお感じになりますか?
堀川社長:当社の主力商品である米マツ構造材「ドライ・ビーム」は為替の影響を受け、7月1日から値上げしましたが、円高に振れた9月に値下げしました。この当社の対応に御客様からはご理解を頂けていますが、この為替の影響を受けず、価格的に一番安定しているのは国産材です。そのため、国産材へのシフトを進める工務店さんの動きも感じています。
欧州材は、ガザ地区の戦闘に関連する形でスエズ運河の輸送船が攻撃されたこともあり、納期、価格ともに読み難いことから、現時点で不安定な状況となっています。さらにこれまで採算が多少合わなくても運営していた現地メーカーが工場の閉鎖や、他工場に集約させるなどの動きを見せています。今後、こうしたことから入荷量は減ってくる見込みで、安定している国産材にニーズが移ってきていると思います。
――未来にわたって国産材が安定して使われるためには「伐って、使って、植えて、育てる」という持続可能な森林管理を確立することが求められると思います。50年後、我が国の森林経営と木材業界をサステナブルなものとするため、今から取り組まなければならないことがあるとすれば、それは何でしょうか。
堀川社長:「①伐採後の再造林率を高めていくこと」、「②山の大型化」、「③CO2排出権ビジネスの定着化」の3つです。①につきましては、植林しても枯れてしまうと無駄になってしまうので、活着率を高める必要があります。当社は昨年、スギの苗を生産する企業を子会社化しました。特に九州地区では杉苗の不足問題があり、それに対して、優良な苗の増産を図っていきたいと考えています。②については地道にやっていかないと、様々な問題が解決していきません。機械の高性能化が進んでいますので、伐採コストは下がると思うのですが、全国的にみると林道整備が遅れていると思います。トレーラーが入れる中間土場に一回下ろし、また積んで…という作業を何度も繰り返すと、伐採コストが幾らか下がっても、トータルでのコストはほとんど変わらなくなります。インフラ整備により国際競争力をつける必要性を感じています。
こうした中、③のCO2排出権ビジネスであるJ―クレジット制度がより普及することで、山林を管理する価値が高まれば、景色は変わってくるのではないかと期待しています。当社の一部の山林もJ―クレジット制度のプロジェクト登録にて今年の6月6日に正式に承認されました。これは間伐など、山林を活性化させてCO2の吸収率を向上させることにも繋がります。こうした取り組みで山の価値を高めていければと思います。
――国産材消費を増やすため、輸出事業を発展させることは可能でしょうか。
堀川社長:輸出は増やしていくべきです。当社の昨年度の輸出実績は、中国・台湾・韓国向けに2万5000㎥でしたが、米国向けにトライアルを開始しています。米国ではレッドシダーの埋木量が減少傾向にあり、それを日本の杉で賄おうという動きがあります。ひとつは、2×4材であり、もうひとつは、デッキ材です。こういった輸出をきっかけに杉が米国で評価されれば、可能性は膨らむと考えています。
ただ、輸送の課題もあります。また、米国からの要望に対応しきれない要因として、要求される数量が大き過ぎることも挙げられます。安定取引の前提として、量的にもスタンダード部材になれなければ取扱い出来ないという考え方があるのでしょう。
こうした点がネックになっていますが、基本的に海外輸出は体制が整えば十分可能だと感じています。
――トラックドライバーの残業規制など、輸送面についても注目が集まっています。
これら諸問題も含めた上で、将来的に木材の供給体制はどのような形になっていくと考えられますか?
堀川社長:物流は様々な要因から、もはや「お金さえ出せばいくらでも運んで頂ける」状況にはありません。
これに加えて脱炭素についての取り組みも重要となります。
特に船は輸送効率でも有利になります。とはいえ、船も予定通り回転できるわけではありませんので、「運ぶ物を貯めて纏めて載せる」という観点から、倉庫機能が再び脚光をあびるかもしれません。
また家が「建てる」から「買う」に変わってきている中、規格住宅であれば計画的に木材供給を行うことができますので、今後は構造材の受注生産による安定取引も成り立っていくのではないかと考えています。
――若い世代や女性に向け、どのように木材や林業についてアピールをしていきたいと考えていますか?
堀川社長:当社の女性比率は高まっており、14%まで上がりました。
現場でも女性の活躍は目立ってきており、フォークリフトの運転や製品検査などで丁寧な仕事ぶりを見せてくれています。
今後、労働人口が減少する中、若い人や女性だけでなく、高齢者に活躍して頂く他、省力化も進めていかなければと考えているところです。
――御社は社会的責任として、どのようなCO2削減に向けた取り組みなどを行っているのか、実績をお聞かせください。
堀川社長:木質資源を扱う企業の皆さんの仕事自体がCO2削減に繋がります。
「切って、使って、植えて、育てる」ことは循環経済として成り立つものだといえますし、端材はバイオマス利用と、木材全てを活用する非常に理にかなった取り組みにすることが出来ます。
当社では、木材の乾燥においても、従来捨てられていた樹皮も使って、蒸気をつくり、木材乾燥のエネルギーとしています。
その燃料は水分を含みますが、バイオマスの排熱で乾燥させ、その木質燃料を15%節約させる設備も宮崎で稼働させました。
再生可能エネルギーの効率も追求していきます。
――50年後の住宅業界から見て、御社はどのような企業だと認識されていることを希望されますか? 理想的な姿についてお聞かせください。
堀川社長:当社のキャッチコピーは35年前より「人と環境のことを一歩進んで考える」ですが、これは大切に守りたいと思います。
その上で、木質資源の循環型事業を目指し、それに関わってくれる人材育成にも取り組めればと思います。
木質資源の循環型事業にて、社会に貢献できる企業のモデルになりたいと考えています。
日本住宅新聞提供記事(2024年11月5日号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp