音環境の提案強化に向け実験棟新設 創立から続けるマテリアル利用 さらに推進しサステナブルへ
50周年記念特集号(第三弾) 大建工業㈱ 億田正則代表取締役・社長執行役員CEO 音環境の提案強化に向け実験棟新設 創立から続けるマテリアル利用 さらに推進しサステナブルへ
国内の床材シェアでトップを誇る建築資材の総合企業、大建工業㈱は来年創立80周年を迎える。
来年度をゴールとした長期ビジョン「GP25」の最終年度が迫るなか、同社トップの億田正則代表取締役・社長執行役員CEOに住宅業界の今後についてきいた。
――弊紙50周年記念インタビューにご対応いただきましてありがとうございます。
早速ですが、2023年度の業績の振り返りについてお伺いできますか。
億田社長:50周年おめでとうございます。
2023年度の弊社の業績は為替やコスト増の影響が大きく減収・減益となりました。
前期では売価アップの対応が途上でしたが、後半にかけてはお客様にコスト増を徐々にご理解いただきつつありました。
非常に苦労した1年だったと捉えています。
――国内外における2024年度の経営方針についてはいかがでしょうか。
億田社長:今年の住宅着工戸数は残念ながら80万戸台への達成が期待できない見通しです。
そんな中、弊社が展開している建材の販売量を維持しつつ、より機能性など付加価値を訴えていく時期に突入していると思っています。
それは「新たな」取り組みを意味します。例えば「新用途」であったり「新機能」であったり、あるいは「新規得意先の獲得」や「新マーケットへの進出」などです。
こうした方針を経営に組み込んでいますが、それだけではありません。社員全員の「人財」価値が最大化できるように対人関係能力を高めていく目標も方針の中に入れています。
――中長期的な市場動向の見通しはいかがでしょうか。業界では2024年問題による職人の労働時間規制による影響や物流の混乱などが特に注目されているようです。
億田社長:2024年問題の根幹をたどっていくと、人材不足に行き着きます。物流問題については、納期など時間的な制約が大きいため、コストの容認などで解決につなげていける糸口はあります。一方、住宅業界における職人不足についてはどうでしょうか。ホワイトカラーへの就職には手を挙げるものの、職人さんというブルーカラーの仕事を避ける方は多いように思います。一時期はなりたい職業ランキングの1位が大工さんという時代もありましたが、こうした仕事に夢を持たせていかなければ人材は集まらないでしょう。また、3交代制の仕事も同様です。夜勤は深夜手当がつきますが、お金だけがモチベーションの要因ではありません。こうした課題は一番の懸念点です。
――住宅業界が今後どうなっていくか、その展望についていかがでしょうか。
億田社長:住宅着工戸数を追うよりも、高付加価値の住宅提案に向かうべきです。
実際に高性能な家や自社の特色を打ち出している企業では外部環境が厳しい中でも受注を抱えられています。
当然ながらローコストを求める層もあるのですが、これから求められるのは「より良い住み心地」だと思うのです。
例えば日本の省エネ基準(断熱等性能等級4)は、ヨーロッパの住宅と比較すれば通過点でしかありません。
実際に今夏も住宅内で熱中症に罹患された方について報道がありましたが、今の日本において住宅は凶器になっている側面もあります。
日本国民がもっと断熱性能の高い住宅に住めるような政策を進めていかなければいけないと思うのです。
地球温暖化がこれだけ進んでいる中では既存の補助金制度も重要ですが、政府には30~50年後を見据えた性能をもつ住宅が供給されるような政策を考えていただかなければなりません。
こうした中において、日本の住宅事情の現状を把握し、将来必要とされる住宅性能を察知される工務店さんならば、絶対に勝ち残っていくと思っています。
ただしこれには高い住宅性能の必要性を施主様に訴える説得力も必要ですし、実際の施工現場で安定した供給が行えるかどうかというところもポイントです。
こうした取り組みが今後住宅業界の成すべきことではないでしょうか。
――今後の住宅にはどのような性能が求められていくのでしょうか。
億田社長:住宅の性能が高断熱・高気密に進んでいけば空間の密閉度が高まります。
これによって数値化できない音の問題や部屋干しなどで生じる湿気の問題など目に見えない不具合が出てくるでしょう。
弊社では音や湿気の問題に対応できる建材を提供しています。
ただし特に音に関してはもっと深めて研究しなければならないと考えています。
建築工法には在来工法や2×4工法、鉄筋コンクリート造などがあり、木質構造体だけをみてもCLTや集成材など様々な種類があります。これらのような工法や構造体によっても音の伝わり方は変わります。
そこで弊社では来年10月完成予定の音響実験棟「音環境ラボラトリー」を岡山県に着工しました。
棟内には構造躯体にCLTを用いた「木造実験室」を作って、音の伝わり方などを研究します。
どうすれば綺麗に音が伝わるか、反響音が減らせるかなどの知見が提供できると考えています。
――音環境が変われば別の問題が生じるケースは確かにあります。
「幹線道路沿いの戸建住宅で車の騒音を軽減するために二重サッシを入れたものの、今度はトイレの水洗音が室内に響くようになってしまった」という実例もありました。
億田社長:窓リフォームに補助金を出すことは断熱性能の向上に寄与する観点から良いことではあります。
しかし、密閉度が高まることによって音の問題が発生するという認識を持たれている業界関係者は少ないのではないでしょうか。
――音環境の付加価値提案について具体例はありますか。
億田社長:居室空間の捉え方はその人のライフスタイルによって変わります。
住まいの空間であったり、在宅勤務のための仕事空間であったり、それらの空間の快適性をどのように感じるかも人それぞれです。
そのヒントを得るために弊社は東京都千代田区丸の内の会員型コワーキングスペース「point 0 marunouchi」で3年以上条件を変えながら実証実験を続けています。
実証実験の内容は半個室空間の音環境をどのように改善するかや、内装木質化による生産性向上の効果がどれだけあるかなどです。
コワーキングスペースであるため、働いている人に実際に利用していただき、検証しています。
音環境への満足感はその人によって変わるため、ベストマッチの提案は難しいのですが、そこを絶妙に調整しながら提案できるような形が今後実現できるようにしたいと考えています。
――今後メーカーには環境配慮への取り組みが求められていくと思いますが、御社では今までどのような取り組みをされてきましたか。
億田社長:弊社は昭和20年に大建木材工業としてスタートしましたが、もともとは別会社の木材関係部門だけが独立した経緯で発足しました。
その当時は、大建工業発足の地である富山県の井波で、富山の山林から出材した地産木材を加工していました。
昭和33年には今の岡山工場でインシュレーションボード(木質繊維板)を製造することとなりました。
製材が盛んな岡山県の知事から製材端材を何かに使えないかというご意見をいただいたのです。
そこで端材をチップ化しインシュレーションボードが作れるよう岡山工場に設備投資しました。
その他、鉄を精錬する際に発生する副産物のスラグを有効活用し、ロックウール吸音天井材へと生まれ変わらせました。
さらに日本は世界有数の火山大国です。
大量にある火山灰をロックウールと組み合わせて「ダイライト」という製品も作りました。
――御社の歴史をたどると、サステナブルな取り組みを数多く展開してきたことが分かります。今後についてはいかがでしょうか。
億田社長:建材はいずれ廃棄されます。
木質原料であれば燃やす際に固定化されていた二酸化炭素が再び大気中に放出されてしまいます。
弊社はマテリアル利用を推進するのが基本方針で、サーマル利用は最後の手段です。
そこで先述のようなリサイクルした建材が再びマテリアル利用できるような仕組みの構築に取り組もうとしているところです。
実現しようとすればやはりコストは上がります。
環境に配慮した製品を生産すればコストアップにつながるという社会的認識を浸透させていかなければなりません。
――最後に弊紙の読者工務店にひとこと、お願いします。
億田社長:地場の工務店さんには独自の特徴をお客様によく説明されながら工務店、施主の双方が納得された住宅をお建ていただきたいです。
先述の通り今は地球温暖化が進んでおりますので、5年後、10年後、20年後はさらに過酷な自然環境になっていることも想定されます。
過度に心配しすぎるのも良くないのですが、そんな将来をも想定した快適な家づくりが必要だと考えます。
日本住宅新聞提供記事(2024年11月5日号)
詳しくは、NJS日本住宅新聞社ホームページにてご確認下さい。
http://www.jyutaku-news.co.jp